2014年8月10日日曜日

ニコチン280mg

 三ヶ月に一回ぐらいのペースで喫茶店で4時間ぐらい話し込む友人がいる。
 彼は高校の友人で、中高一貫校であるおれの出身校に高校から入ってきた。個性的な性格をしていて、少し考えないとしゃべることのできない口下手な男なのだけれども、地元が近くて帰りの電車がほぼ一緒、更に剣道という共通点などあって彼が入学してすぐに仲良くなった。たぶん彼の一番最初の友人となれたのではないだろうか。おれとおれが去った剣道部をつなげてくれた一人でもある。高校を卒業しても地元が近いのですぐに呼び出され、あらゆる喫茶店で何時間も居座った。おれが憂鬱を抱えていた浪人時代からその会合が始まったのだが、最初はただただ話し込むという機会に戸惑った。気の知れた友人だから苦痛ではないのだけれども、飲みにいこうだの、遊びに行こうだの言わずにただただ話し込むことを求める彼が不思議でならなかった。その違和感も何年も続けているうちになくなり、近況報告をし合うことは楽しみとなった。

 彼のいいところは会おうというペースが非常にちょうどいいこと。おれは今まで人を誘ってどこかにいくという経験に乏しく、いつも受け身な人間である。更には受け身な人間のくせに、某に誘われたからといって気分によって適当な理由をつけて行ったり行かなかったりしたりもする(これは浪人時代の誰とも会いたくもない鬱々とした時代の尾ひれをひいている)。ちなみにこれも彼のいいところなのだけれども対面している相手と優劣をつける、つけたがるという若さや自意識が彼にはとんとなくて、浪人時代に彼と会うことはほとんど苦痛ではなかった。

 しかし彼が会おうと提案してくる間隔が非常にちょうどいいうえ、時間はとるが会ってすることは非常に気楽なためあまり彼の誘いを断ることはない。それほど期間は離れてはいないが、少し懐かしくなった時に彼からの連絡がくる。予定が合わなければ一週間先延ばしにしたりしてどこかに入り浸って話し込む。ある期間に集中的に呼び出しておれを疲れ果てさせる他の人間とは違った気楽さがあった。

 彼の報告はいつも女と旅行と自分の専門についてである。女といっても彼は非常なシャイな人間のためあのこがきになる、こうすれば彼女を誘うことができるだろうかという類の話である。また、彼は興味のあることのためには日本のどこにでもいくことに躊躇がなく、何々というアーティストが日本でツアーをしているから大阪の会場はもちろん、名古屋も東京も仙台もいってきたなどと平気で吐かす。なにかの理由がなくても九州や北海道にいったりする。そこで出会った人や、起きた出来事の話はとてもおもしろい。大体は彼の奇天烈な行動に笑っている。(泊まるところがなかったから駐車場で寝たなど)。

 一番話していることは彼の専門についての話である。彼は中東のとある言語を専門に大学を過ごし、院では中東、南アジアの文化や宗教を専門に研究する学生をやっている。スーフィズムやムスリムという単語がでてくる話を聞くのは誰も話してくれないことなのでおもしろい。おれは彼がウルドゥー語もヒンディー語もミミズみたいな文字でワロタと言い始めているころから話を聞いているのである程度ついていけるし、わからないと告白すれば丁寧に教えてくれる(塾講師のバイトをしているせいか質問して納得いかなかったことは少ない)。彼の風貌も青年らしくなり、肌も浅黒く、語っている内容と見た目がマッチしはじめ、院にはいって本格的に文献調査をはじめたため彼の話がどんどんおもしろくなっている。おれが世界情勢というものを知るのは大体は彼の口からの情報が多い。

 今日も彼に呼び出されて梅田へ行った。彼は寝坊したようで一時間半ほど遅れてきたけれども、おれはメールが返ってこないことから予感がしていたため、集合時間から10分がすぎたころにはもう喫茶店で本を広げてタバコを吸っていた(慧眼)。同窓生の噂や彼の専門の話を聞いていたらすぐに4時間ほどたったので彼をバイトへ行かせた。帰ろうとしたら台風の影響で電車が動いてなかったのでまた喫茶店にいってタバコと本で過ごした。今日で一箱吸ってしまった。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿